第三十譚 乖離の空

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 雷斗と同じように雪を大量に浴びてしまっていた姉は、雷斗が先にシャワーを浴びたせいでまだダウンを脱いでいなかったはずだ。ついていた雪が暖炉の炎で溶け、垂れてしまっているに違いない。 「ったく……姉ちゃんってばまた拭かずに歩いたなー……」  不器用な上に無頓着な姉は、こうやって汚してしまっても気づかないことが多かった。雷斗は髪を拭いていたタオルで水滴を拭っていく。拭いていけば姉がいる場所にもたどり着けるだろうと踏みながら。  ────それが悲劇への道標であったことなど、まだ、知る由はない。       ◆◆◆ 「叔父様[お父さんの弟]には会ってみたいと思っていたけれど、まさかこんな陰湿な人だとは思わなかったわぁ」  ダミアン・ホラーハイズが居なくなったレイチェル王立公園の中で、一番に口を開いたのはジャンヌだった。わざとらしく口元に手をあてる彼女は、相変わらず黙っていれば可愛い存在、と言ったところだろう。 「俺も驚いたよ。義姉さんの娘ならどんなに好かれる性格かと思えば、大概な性格をしているようだな」  応酬したフィノの言葉に、ジャンヌの頬がビキッ、と上がる。確かにジャンヌの挑発癖は万人に愛されるそれとは程遠い。しかし姪相手にそれを言い放ってしまうフィノも、結構な大人気のなさだが。 「目が見えないと聞いていたけど……本当に魔女と契約したってわけね」  赤い双眸を見せるフィノに、ジャンヌが鋭い視線を向ける。 「貴方のその眼に見えているもの……叶うことなら見たくはないものだわ」 「……」  ────……?  ジャンヌの言葉にフィノは何も答えなかった。いつもなら分からない雷斗に対しフォローを入れるジャンヌだが、今日は視線を向けてくることさえなかった。 「叔父様。私、契約者とお話ししたいことがあるのよ。悪いけれど今日のところは、私を倒さないでおいてくれる?」  いつも強気なジャンヌらしくない言葉に雷斗が驚く中、フィノがす、と視線を雷斗の方へ向けた。 「どうする?」 「……」  魔女の配下として【火刑者】の一人となったフィノは、雷斗に反対されればこの場から離れることはできない。それを承知の上で、ジャンヌはそう言ったのだ。雷斗がフィノに向けていた視線をジャンヌへと戻すと、彼女は腕を組んだまま雷斗を見据えていた。  その瞳は何の言葉も持っていないのに。雷斗にはっきりと伝えてくる。
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