第三十譚 乖離の空

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「驚いたわよ。たださっきじゃなくて、あんたの過去を夢に見たときに、ね」 「────」  夢。そうか……。  雷斗がジャンヌの過去を夢に見たように、ジャンヌも雷斗の過去を夢に見ることができるのか。 「夢を見る前にも、あんたが祇原にすごい執着を持っているのは知ってた。だけど夢を見て更に確信したわ。あんたは必ず私達より、哉多の家族より、祇原を……いいえ、【姉】を選ぶって。その気持ちは……いいえ、気持ちじゃどうしようもならないその本能は、分かるから」 「……」  今全く別の道に立つジャンヌの言葉を、雷斗は拒絶せず、素直に受け止めていた。それは彼女の言葉が同情ではなく、同じ立場に立つ者の【感想】に過ぎなかったからだろう。 「だから雷斗」 「……?」  ジャンヌがまた話しかけてくるとは思わなかった雷斗が首を傾げる。  次の瞬間ジャンヌは、雷斗が全く予想しなかった言葉を口にした。 「私と共犯にならない?」 「────────────」  ……え?  ジャンヌの言葉に、雷斗は目を見開く。 「は?」  大きく目を見開いて、息を吸って。その後雷斗の口から出てきたのは、素の驚きの声だった。  そしてそれと共に浮かんできたのが、苛立ちと嫌悪。先ほどまで浮かんでいた過去の仲間への愛着が、拒絶へと変わっていく。 「……何を、言ってるんだ? お前」  だが、ジャンヌはそんな雷斗の思いなどとうに見越していたとでもいう様に、気にした素振りを見せず堂々と雷斗を見据え、人差し指を向けてきた。 「簡単なことよ。今までわたし達は背中を向け合う共犯者だった。だけどもうそんな縁はない」  ジャンヌの言葉と共に、彼女の人差し指が徐々に刃のように見えてくる。  雷斗の喉元に、そして雷斗を貫いたその向こう側にいる敵に向けられているように。 「私達はお互いを道具に使えばいいの。わたしはあんたを尊重しないし、あんたもわたしを尊重しない」 「……」  ジャンヌの言葉に、雷斗は指を噛む。その姿を見てジャンヌがふ、と笑った。 「あんたのこと、ずっとほんとむかつく真人間だと思ってたけど……」  その笑みは酷く暗い。拒絶、嫌悪、猜疑。俺が今ジャンヌに感じている感情とまるで違わない。俺たちは絶望的なまでに同じ感覚を持っていて、違う道にいる。絶対に交じり合わない敵なのだ。 「十分クズよね」
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