第三十譚 乖離の空

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 雷斗の言葉に、ジャンヌは大して大きな反応を見せなかった。まるでここがカフェかと錯覚するほど可愛らしく、そして特に何も気になっていないように小首を傾げるだけだった。 「何かしら」  そう飄々と呟いたジャンヌを、雷斗は射殺すような瞳で見下ろす。  その冷静な姿。俺を何の脅威とも思っていない瞳。────許せない。  例え背を預けないとしても、彼女と共に戦い続けることなどできるのか? それができるとは思えない。彼女がなんのために俺を留めようとしているのかは分からないが、共に居ることが出来ないようにさえしてしまえばいいだけの話だ。 「お前の目の前で」  そしてその方法が一つ、ある。ただ偽らざる気持ちを彼女にぶつければいい……それだけだ。 「お前の兄貴を殺してやる」 「────」  雷斗の言葉に、ジャンヌが大きく目を見開く。  ジャンヌはアーカイバー一族。彼ら一族は当主に仇なす者[邪魔者]を許せなかったはずだ。そう……雷斗がグリムを殺すと宣言すれば、彼女は最早共犯者などというふざけた言葉は発せられない。  そのはず、だったのだが。  ふ、と瞼を閉じるジャンヌ。その長い睫毛の動きに、雷斗の目が釘付けになる。  彼女の仕草で。彼女の余裕で。雷斗は彼女が言葉を放つより先に、気づいていた。  ジャンヌは。 「あら。……こわぁい」  俺のことを【邪魔】だとは思っていない。  そして雷斗のその考えは当たった。ジャンヌは笑っていた。  笑った、だけだった。 「────」  今度は雷斗が大きく目を見開く番だった。 どうして? 何故ジャンヌは俺を邪魔者だと認識しない? 俺はそんな力量がないとでも思われているのか?  訳が分からない。雷斗が頬に冷や汗を流す中、ジャンヌが一歩雷斗へ歩み寄ってきた。全く心を読めない笑顔で近づいてくるジャンヌ。思わず彼女から一歩、離れてしまいそうになったが、気力で押しとどめた。  それは最後のプライドだったのかもしれない。男として、そして彼女の契約者として一度は【守りたい】と思った存在に怯える自分を知りたくなかった。  だが。そんなプライドはむしろ恥でしかなかったのかもしれない。  一歩、雷斗に歩み寄ってくるジャンヌ。その姿に雷斗は唇を強く噛み、そして堪える。 「そういえば逃げられると思った?」
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