第一譚 ダイナの迷い

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 たった一人、孤独に苛まれながら。縫い繋がれ、ピンで繋がれただけの心臓は脆く感情を流していく。 「人と関わるのは、嫌なの……」   罪が絡みついて離れない。       ◆◆◆  日々【統制】と言う名の殺戮が行われる、毒に満ちた現代。  失楽園王都【N】地区。唯一栄えている裕福な街で今、忘却されていた過去の残骸が目を醒まそうとしていた。       ◆◆◆  失楽園に太陽はない。  常にこの世界は黒い。私からすれば、間違った黒で塗り潰された愚かな世界だ。  だが、失楽園の民は言うだろう。この黒は、神に勝利した証なのだと。  唯一あるのは、鉄柱からぶら下げられている幾つものランプだけ。様々な色の炎が揺らめいているそのランプは、頼りない茨にかけられているだけだった。  つまりこの世界には自然の光という物がない。グリムリーバー達が発する毒を吸収する特殊な茨が、それを原動力として炎を灯している。  故に、炎の色は刻々と変化する。毒の力が強い人物が近くにいれば、その色一色に変わることもある。そして今、私の周囲で灯っている炎は全て、薔薇色。  無論そんなもので太陽の代わりができる訳がない。この公園内はかなりランプが設置されている方だが、森の方を見れば数歩先も見えないほど。  神に逆らった英雄ルシファーが創り出した自由の世界、【失楽園】。人間と言う愚かな種族の地位を引き下げることによって手にした、安住の地。  ルシファーという名をくちにすること自体が恐れ多く、失楽園の民は皆、ルシファーをサタンと呼ぶ。  失楽園は叛逆を成功させたルシファーを長に、それに仕えていた堕天使、グリムリーバー、そして人間と言う階級がある。  高位のものには逆らうことができず、淘汰という理由によって人間はグリムリーバーに排除……つまり殺される。かくいうグリムリーバーも、堕天使の気に触れば、ただでは済まない。名目上は裁判にかけられるが、裁判官の構成は圧倒的に堕天使が多いのだ。  つまり、失楽園という世界を勝ち取った結果生まれたのは、弱肉強食かつ権力主義の世界。それでも神の元に居たよりいいというのだから、理解に苦しむ。  与えられた仮初めの自由より、自ら勝ち取る自由の方がいい、ということだろう。新たな価値を生み出すより奪い取る方がいいという、私からすれば愚直な思想だ。
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