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「な……なにから伝えるべきなのかわからないっていうかえっと……」
全く要領を得ないレオに最早ため息すらでないニーナだったが、本を魔術で小さくしてしまって居ると、とんでもない言葉が耳に入ってきた。
「ジュ……ジュニアさ……じゃない、グリム様が! 消えた!!」
「先輩がどうしたですって? 彼は今封印されてるのよ、どうこうないで…………は? 消えた?」
グリム。33年前、大罪を犯して封印された、【十二番目】の名前。
ニーナもまたその封印を掛けた一人だった。
………………消えたって、どういう、こと?
驚きで、言葉が出なかった。持っていた本も思わず手を離してしまい、ばらばらと音を立てて開きながら落ちていく。
レオがここまで言葉が出てこなかったのも、理解ができることだった。
だが、そこでまた新たな疑問が頭に浮かんだ。
────ちょっと、待って? 先輩が目覚めた? でも……私のかけた封印は……
「消えたって、まさか封印ごと? 一体なにが」
「伝えたからな!! あとはジャ、ジャック様とえっとあぁああ!!」
ニーナが疑問をぶつけようとした刹那。とんでもない声で叫んだ我が従者は主人の言葉など全く聞かずに騒ぐと、走り去ってしまった。
思わず引き止めようとあげた手が、虚しく宙を掠める。
…………。
とにかく、【偽王国】に行きましょうか……。
ニーナは盛大なため息を噛み殺して立ち上がる。
重厚なブーツを纏う足を踏み出しかけた直後、彼女の足に猫が一匹、頬擦りしてきた。
ニーナの大嫌いな、黒猫が。
「……」
なんだかもう、色々散々。
ニーナは大きくため息を吐くと、魔術で小さくしていたシガレットケースとライターを取り出し、煙草に一本、火を灯したのだった。
◆◆◆
【失楽園】は、皇帝ネロの悪魔の数字を用いて区分されているファントムだ。
中枢である王都【N】地区を中心に、左から時計回りに【r】、【w】、【n】、【q】、【s】、【r】となっている。
地区間にはそれぞれゲートが設置されており、ゲート内のターミナルを通過する権利が無くては通ることができない。
地区の狭間に置かれた巨大な柵とゲートが、種族を分離する役割を果たしているのだ。
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