第一譚 ダイナの迷い

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 ニーナが足を踏み込むと、その気配を察知したカラスが飛び立つ。その羽音が何とも悪い雰囲気を助長する。  相に変わらず薄気味悪いこの場所は、ニーナにとって得意ではない場所。何回来ても慣れることがなく、内心ざわつくのを抑えられなかった。  だが、ここで引き返す訳にはいかない。ニーナは覚悟を決めて扉へと足を向ける。  そこには、四天王第ニ位のジャック・ホラーハイズが指揮を取る騎士団と、第四位のヴィンセント・ダントーニ率いる処刑執行者の束が揃っていた。  そのうちの一人、比較的手持ち無沙汰に見える人物の近くに、ニーナは歩いていく。 「中に入りたいのだけれど。状況を教えてもらえる?」  ニーナが話しかけると、その存在を視界に収めた人物は、あからさまに嫌な顔を見せてくる。忙しい仕事中なのに、と言った感じだ。  だが四天王であるニーナを無下にすることは、できない。ニーナの機嫌を損ねてここで殺されても、文句は言えないのだから。  本来ならば自分の部下に聞けばいいのだが、生憎ニーナの部下はレオだけ。四天王第一位のアーカイバーもロギスモイ軍を掌握していることから、なんの部隊もつき従えていないのはニーナだけだ。  本当は四天王第三位の役割として、グリムリーバー街の警護を担当するガーディアンズの指揮を執るのが通例。が、協調性の欠片もない────と周りは言う────ニーナにそれが任されることは、無かった。  故にガーディアンズはジャックの管轄下であり、事務処理等々はニーナが全て行っているものの、指揮権は無い。その気になれば動かす権利はあるのだろうが、ニーナの命令を聞くとは一切思えなかった。  そしてニーナ自身もまた、【絶対に自身を嫌っている】他者と共闘するなど、馬鹿げたことにしか思えなかった。  故に貫く。一匹狼を。 「現在、事態を把握するために全館内を魔術探索しております。現段階では【十二番目】の封印が壊れた理由も、足取りも掴めて居ません」 「……そう。ランプを一つ、貸して貰える」  結局、わかっているのは逃げたと言うことだけね……。  ニーナは再び出かけたため息を無理やり飲み込んで、それだけ言った。いなくなってくれるのは大歓迎、と言わんばかりに、ランプが一つ渡される。  それに自らの毒で炎を灯したニーナは、開かれた【偽王国】の扉の奥へ、足を進めた。
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