“桜咲く日、旅立ち”

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その中心で笑うあいつ。 屈託ない笑顔を浮かべてみんなを笑わせているあいつの、学ランをこっそりと調べる。 上から二番目のボタンは、しっかりと留まっていた。 私はほっと息をついた。よかった、と心から安堵する。 ――川口颯(かわぐちそう)。 同じクラスの女子も違うクラスの女子もみんな、もう先程から何度も、あいつのまわりを囲んでいた。 そのたびに私はひやひやしながらその様子をうかがっていた。 あいつの冗談に女子たちが笑う様子を見ていると、心の中がもやもやした気持ちでいっぱいになり、気がおかしくなりそうだった。 「もう、川口やばいよ、かっこよすぎ」 「だよねー、第二ボタン、くれるかな」 「ちょっと、それ私も狙ってるんだけど」 「やっぱり? ……っていうか、女子みんな狙ってるでしょ」 私たちのまわりの女子グループがそんな話をしているのも聞こえてくる。 私だって。 私だって、狙ってるんだよ。 そう言いたくなる。 けれど、そんな勇気がない。 羨んだってしょうがないのに。
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