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イく瞬間。
目の前の男の肩に額をくっつけて、ぎゅうっと目を瞑った。
その時は安田の顔はひとつも浮かばなかった。
ただ快楽を追った。悲しいかな、これが男というものだ。
それで、ハッハと息を整えてるうちに急激に頭にきて有住を跳ね飛ばした。半ば殴ったみたいにして。
何だ、酔ってたから抵抗できなかったのじゃないのかと思うほどの力で。
「ってぇ、」
「ふざけんのも大概にしろ、このヘンタイ野郎が!」
そのヘンタイに抜かれたのはまさに自分なのだが、それを見ないことにして川崎は汚れた下着も構うことなく、ズボンを引き上げると、床が抜けそうなほど荒々しい足音を立てて、隣の部屋、自分の部屋に向かった。
バンっと大きな音を立ててドアが閉まる。
もう見えなくなった後ろ姿を思い浮かべて、有住はシャワーを浴びようと腰を上げた。
…川崎さん、かわいかったな…。
目元を赤く染め、唇をぎゅうと噛む姿。
その行為をしたのは自分だったが、きっかけが他の男であった。
そのことが有住には残念でならない。
…恐らく、安田さん…見たこともないけれど。安田さんより上手にセックスすることができるに違いないけれど…。
所詮、職業が反映されるのか、テクだけだなんて虚しすぎるじゃないか。
川崎が卑下するのもわかる。
気持ちのこもってない行為に何の意味があるのか。
男だから女よりは重要視されないのだろうけれど、好きな人ではやはり違う。
体に覚えさせてどうにかするのなんて、簡単なことなのだけれど。
有住は明日の仕事が憂鬱でたまらないと思ったのは初めてのことだったかもしれない。
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