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翌日川崎は凄く嫌な予感がし、目が覚めた。
夏の暑さは容赦なく朝だというのに室内を熱していた。
クーラーを‥伸ばした手がリモコンを取ることはなかった。
その前に、隣から聞こえてくる声‥正しくは喘ぎ声をなんとかしなくては‥。
冗談じゃないっ!
恋人同士の営みなら、隣人として多少我慢してやっても構わないのだ。
喘ぎ声は残念ながら恥じらう乙女でも妖艶な淑女でもない。
少しばかり色っぽさはあるが紛れもなく男のものだ。
100歩譲って同性同士の求愛行為ならいい。
川崎は寝間着変わりのシャツにパンツ1枚のままサンダルを履くと隣のドアを容赦なくドンドンと叩いた。
「ちょっと、あんた!!」
まるで取り立てやみたいに、何度も。
隣人の有住という男はロクでもないヤツなのだ。
川崎は忙しなくインターフォンを鳴らす。
しばらくして、半裸の男が、この上なく参ったなという面持ちでガチャリとドアを開けた。
何となく奥の部屋に数人いる気配がして、川崎はやっぱりと心底イヤやそうな顔をした。
「あんた、そういうの隣で止してくれ、」
そういうの。
「川崎さーん、ごめん。も30分もかからないから、ね?設定が彼氏んちでラブラブ
なんだよ」
というか、なんてセクシーな格好で川崎さん。
つぶやきを川崎が相手にするわけない。
そういうのって、隣人の仕事のことである。
「今回予算ちょっと厳しくて、ね?」
あとで夕飯おごらせて、ウインクされながらパチンと手を合わせられても、ただただひたすらに腹が立つだけだ。
ひとのせっかくの休みをなんで隣でAV撮影されなければいけないのだ。
有住の後ろで困った顔をするスタッフが数名。
顔だけはやたらいい隣人。
売れっ子だというがゲイビデオなど縁などないのだから川崎の知るとこじゃない。
単なる近所迷惑な隣人にしかすぎないのだ。
「管理人に通報すんぞ、」
口が悪いのは、多分昔の名残。
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