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その姿を見た時、喉の奥が異常に渇いた気がした。
安田と会うのは結婚式以来だ。
本当にその日、その瞬間まで自分の気持ちは疑いようもないものだと信じていた。
どこか。
安田は一生、南に片思いなんて思っていたのかもしれない。
南は一生振り向くわけがない。
安田は誰のものになることはないなんて。
そんな気持ちは自分の建て前のずうっと奥の方にあったのかもしれない。
ただ、惹かれ、憧れ、彼の後ろに居れればいいなんて。
だから、式の最中、指輪を交換し微笑み合う2人を見た時に湧いた感情は裏切りに近いものだと愕然としたのだった。
「よ、久しぶり」
確か就職で県外へと出ていったはずだ。正月でも盆でもない今、安田の姿が千葉の店にあるのは想定外としか言いようがなかった。
多分、驚いた顔のまま数十秒、戸口の前に立っていただろう。雑音が一気に鼓膜に押し寄せてきて川崎は現実へ戻ってきた。
「やっと地元の支店に移動願い出せる年になってよ、来月からこっちなんだよ」
今日は挨拶に来ただけなんだけどな。グラスに口をつけながら安田は川崎に隣を促す。座敷を陣取る連中は今日は不在らしい。カウンターの千葉はあきらめたような表情で安田の隣にグラスを置いた。
川崎は何を話したかなんて、これっぽっちも覚えていない。ただただ聞く安田の近況に胸が痛くなるばかりだった。
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