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「何が感謝だ、漬け込んで襲おうとしたくせに、」
本当はそんなことを言うべきではないことはわかっている。御礼を言って自分の部屋に戻ればいいだけのことだ。
ただ、今日、彼と会ったからだ。どこか冷静でいられなかったのは。
十分に嫌なヤツの言う台詞だ。
立ち上がった有住は、座ったままの川崎を見下ろした。
ニコニコと張り付いた笑顔は消えている。
「…まあ、否定はできませんけど」
「お前んちにあがりこむくらいなら、下で寝てたほうが全然安全だっての、」
完璧な八つ当たりだ。川崎はこれ以上ここにいても仕方ないと、立ち上がろうとしたが、有住がそうはさせなかった。
すくっとしゃがみこみ、川崎を壁に縫いとめる。
「オレ、川崎さんのストーカーって知ってますよね?」
「は?今更何だよ、気持ち悪ぃ。そこ退けろ、」
「帰ってきたんでしょ?安田さん、」
「・・・っ!?テメェッ!!」
「今日会ったの?だからそんなに酔っ払った?」
立ち上がろうとしても、思ったより酔いは脚にきていたようだ。
膝を立てようにも力が入らず、有住を退けることもできない。
「ふざけんなっ!!」
「好きだったんでしょ?」
言われてカっとなった。その感情は絶対安田には知られたくない感情で。
裏切りにも近い後ろめたいドス黒い感情。
そして。
「あんた、人のこと散々言っといて、同類でしょ?」
言われたくない言葉。
「っ!!」
多分、殴りかかろうとした。
けれど、すぐに有住に腕をきつく捕まれ、唇を塞がれた。
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