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「………」
ベッドの上の男は、無表情に天井を眺めていた。
全身の血管は赤黒く、まるで模様の様に彼の体中に走っている。膨れ上がった筋肉は色濃く変色し、人間としての体面を保っていながらも、チューブに覆われた無機質さも相まってまるで怪物の様だ。
「先の帝国は鋼の意思を蓄えながらも破れた国家であったが――歴史的に見れば、敗者でしかなかった」
論調を変える、大沼の演説に周囲はざわめき立つ。誰もが、困惑している様だった。
「私は……」
中継のざわめきに呼応するかの様、男の体が変貌を遂げていく。
薄緑に変色する肉体、筋肉からは潤いが失われ、硬く張り詰めていく。
手の甲から肩にかけて縦列に突起が生え、背中から伸びた翅が腰まで伸びていく。
額を突きだして生えた二本の触覚。額には宝石の様な球体が、血の輝きを発していた。
そして、顔を占める巨大な楕円の目――彼は、さながら人型の飛蝗という異形に、姿を変えたのだった。
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