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「か……、はっ…」
男の痛々しい呻きに、飛蝗人間は慌てて手を離した。
彼の喉は手形にひしゃげ、ぼたぼたと溢れる血が、白衣を鮮血に染める。
飛蝗人間――威は、己の為した行為に戦慄した。情報を聞き出そうと脅しを掛けた結果が、現状で唯一の情報源から声を奪い、重症を負わせてしまったのだ。
「違う――。これ、は」
威は、数歩後退る。その手に残っているのは、鮮血と、喉を潰した生々しい感触であった。
「―――っ」
そのまま、ぴくりとも動かない男を放置したまま、威は踵を返すと逃げる様に駆け出した。
自分が明らかに異常な存在である事を知り、逃げる先など無いと理解していながらも、今の彼にはこうする事以外に選択肢は無いのだった。
威が部屋を去ってものの数分。
男は、ひしゃげた喉を鳴らしながら実に愉快そうな笑い声を発すると、ゆるりと覚醒した。
威と類を同じくする、異形の姿に。
男の全身は灰色の獣毛に覆われ、ずんぐりした胴体からは細長い手足がひょろりと伸びた異形の存在。
薄い翼をたなびかせ白い牙を闇に光らせながら〈蝙蝠人間〉は、逃亡者の追跡を開始したのだった。
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