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……見られている。
「せーんせっ」
「せんせーっ」
目は合ってないけど……見てるな、確実に。
俺を突き刺しているのは、目の前に立ちはだかる数名の女の子たちのきゃっきゃという眼差し、
……ではなく、
その後方から放たれる、気配だけで察することのできる鋭い眼光だ。
「きゃー、もうっ、朝から本田先生に会えるなんて超ツイてるーっ」
「先生、朝のHRから来てくれるのー?」
ばしばしと痛いほどに感じる眼光とは対照的な甘え声もなおざりに、女の子たちの少し後ろをちらりと見遣る。
う、わ。
その目線は……なかなか痛い。
「今日もお弁当一緒に食べましょうよ、先生っ」
「ほら、ナルもっ。いいでしょっ」
「……あ、……うん、そだね……」
……声、低っ。
はしゃぐツインテールの女の子の振り向いた先では、
彼女たちの一歩後ろで、上目遣いに俺を見つめる瞳を警戒の色に染め、ふわりとした前髪の向こうに見える眉が、不機嫌そうに、ひし、とひそめられていた。
『わたし、この学校の生徒だって聴いた』
かち合った視線をすぐさま逸らしたのは、先日、俺を真っ直ぐに見つめていた『ナル』と呼ばれた円らな瞳のあの子だ。
……な、なんかしたかな、俺。
教育実習初日。
始業には大分早い時刻に、爽やかな太陽光を受けながら、通い慣れた母校の門をくぐった。
湧き出す期待に胸を高鳴らせ、渦巻く不安に緊張しつつも、
まばらに登校する生徒達に挨拶をしながら足を進めていた俺は、辿り着いた昇降口で、突如として現れた見覚えのある女子生徒たちに、足止めを食らっていた。
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