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「先生も……あんまり飲めないって言ってたなぁ」 くす、と零れる独り言。 うん、たぶん、独り言なんだろう。 やかましい宴会場で、その程度の音量なら、誰にも届かないはずだから。 先生という人なら、ここにはたくさんいる。 俺にはある人の顔が頭に浮かんだけれど、その人のことを言ってるのかどうかは、わからない……ふりをしておこう。 「あたし、……諦めきれんのかなぁ」 グラスをあおると、喉を通る涼しさがアルコールの熱を抑えてくれる気がする。 三分の二を残したグラスを置き、また視線を会場の最果てに飛ばす俺の耳には、まだ瑞本の声が届いてくる。 「実習期間終わって、また来週から普通に学校に通うんだって思ったら、……嫌でも先生のこと、考えちゃうんだよな」 なおもうつ向いたままの黒髪の彼女に、隣から話しかける男。 会場の下手で、誰の目も配られないからといって、その距離感はおかしいんじゃないだろうか。 「校門潜った先の駐車場とか、いつもの講義室とか。  探すなって方が無理だよなー。……だってそこに居るんだもん。  酷だよ、ほんと」
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