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『W-CO112、今日から移動だ』
W-CO112。そんなのあたしの名前じゃない。
あたしにはちゃんと「悠(ハルカ)」って名前があるのに。
「分かったよ」
反論するのも面倒くさいので、しぶしぶ返事をして、立ち上がった。
あたしは「世界のカギ」という存在らしい。自分では感じたこともない。
どういうことなのかを説明してもらったこともない。
そんな質問や、あたしの数々の反抗が通用しないことは、とうの昔に分かりきっていて、諦めもついている。
小さい頃に両親と引き離されて、ひとつめの施設に来た。
あたしは定期的に移動していないと、危険なんだそうで、今いる施設が5つめだ。
どの施設もつまらなかった。部屋からは出してもらえないし、ずっと監視がついている。洋服もいつもおんなじだった。
唯一、本だけは頼めば与えられていた。
あたしにはモルモットって名前が似合ってるんじゃないかなあ、とひとりでに考えてみたりする。
『10分後には出発するから荷物をまとめておけ』
「10分って早すぎると思うなあー」
事務的で、まるで機械の様な声に反論してみても、やはり返事はない。
「ちぇー。荷物っていっても本しかないじゃん」
ぶつぶつ呟きながら、あたしは部屋から出してもらった。
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