あたしの世界

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運転手が噛んでいるガムのミントの爽やかな香りが車内に広がる。 「あー、そうだ。お前、名前は?」 信号が青に変わり、運転手は前を険しい顔で見つめたまま、そう訊いた。 「え・・・W-CO112、です・・・。」 「あぁ?それ番号だろーがっ!!!」 呆れたように、運転手はチッと舌打ちをした。 そして、深く溜め息をつく。 「・・・そんなんじゃなくて。 ちゃんと、名前、あるだろ。」 静かに、運転手は言った。 え、怒ってるの? それとも、呆れてるの? 前を向いて運転しているので、表情はあまり見えない。 「何だ?隔離されて、名前も言えなくなったのか?」 「い、言えます!」 「そりゃ良かった。長い間違う名前で呼ばれてると、本当の名前を忘れる奴ってのもいるらしいしな。」 「・・・あたしのほかにも、そんなひと、いるんですか?」 思わず怪訝な声になって訊き返す。 ―一いったい、この国は、どれほどそんなことを繰り返しているのか。 運転手はしばらく黙った後、 「企業秘密だ」 と、短く答えた。
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