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「俺は…」
そこまで言いかけて、止まった。
ああ、申し訳ないことをした。薮くん怒ってるかな。
ちらりと視線を向けると、彼の表情は曇っていて、今にも泣き出してしまいそうな悲しい顔をしていた。
「嘘だって、思ってんのかよ」
彼の声が震えている。うん、とも違う、と言えなかった。
どちらかを言ったとしても、彼が泣くことは解っていたから。
何で泣くの、そんなに信じてもらえてないのって悲しいかな。悲しいか。俺も悲しいよ。
薮くん、俺がいつから薮くんのこと想ってたか、わかる?
「俺、薮くんが思ってる以上に薮くんのこと好きなんだよ」
ぴたり、彼が泣くのを止めた。
そして涙で赤くなった瞳で俺をじっと見つめ、「ほんとに?」そう言った。
俺はほんとに、と繰り返した。
多分俺は今、笑っているだろう。
薮くんの細い腕を引っ張って此方に寄せる。ふわりと石鹸のにおいがした。
下睫毛に溜まっていた涙を拭って、頬を撫でた。
薮くんは心底安心したのか、俺を見つめる瞳には安堵の色が浮かんでいた。
「…ん、」
ちゅっと軽くキスを落として、またもう一度キスをする。
薮くんの唇、柔らかいな。って言おうと思ったけど止めた。
ぎゅっと抱きついてきた薮くんの体温は暖かかった。
「好きだよ」
「うん、俺も」
ああ、幸せってこういうことか。
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