Prologue

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 灰色に染められた空は不吉な前ぶれの予感を漂わせていた。その下に広がる海に島は存在した。  神帰島(しんきとう)──遥か昔から「神の帰る島」と呼ばれ、島意外の人間が足を踏み入れれば二度と帰ることは出来ない……。または蜃気楼のように現れ消える。そういった伝説が色濃く残っている。  日本の一部の政府機関がその存在を知り、外界から隔離し歴史の表舞台から消し去り守り続けてきた。  誰も冒してはならない神聖なる領域はもうじき新しい季節を迎えようとしていた。  身体に凍みるような雨はどこか罪を洗い流してくれるような錯覚を覚えさせるようだった。  島の中心にある岳には薄紅色を纏った木々……その枝で雨宿りする小鳥たちの囀りが生命の息吹きを感じさせてくれる。  その木のしたで同じく雨宿りする一人の少女が、島の外界に広がる海を見つめていた。  時折、イタズラに吹く小風は美しい黒髪をフワッと揺らす。少女はそっと瞼を閉じ、ひとときの静寂をあじわっていた。その様子はまるでこの島を見守る女神のようでもある。  だがそれも束の間。その静寂を払うかのように瞼を開き何かを感じとったかのように島全体を見渡す。辺りを見渡しながら彼女の視線が島の西側にある海岸で止まる。
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