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少年こと──優はゆっくりと上半身を起こし老人の質問に答える。
「……はい。僕の名前は黒雛優です」
彼の優しそうな雰囲気に合っていそうな名前だと、老人の横にいた少女は心の中で思った。
「黒雛優か……。して、黒雛さんとやら、君の素性を話してもらえるかの?」
老人はこの場にいる者が一番知らなくてはいけないこと──いや、当然の事なのだが質問を続ける。
「僕は高校生で、この春休みを利用して旅行船に乗っていて……突然大嵐にあったみたいで」
窓の向こうに広がる森を見ていると、雨の降る中で風で揺れる度にひっそりと見え隠れする教会に視線を奪われる。
その様子を観察していた男が優の視線の先を確認し一瞬嫌な顔をするが、優には悟られないように老人に合図を送る。
それに気づくと、老人は首を横に振りながら、また質問へと戻す。
「なる程、大嵐に巻き込まれこの島の海岸に流れ着いたわけじゃな?」
教会に見入っていた優はその声に反応し、「質問されている途中だった」と我に返り老人の方を向く。
「はい。それに……」
「それに?なんじゃね?」
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