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羽鳥がドアノブを押すと、ぎいい、という音とともに、正面玄関の扉が開いた。
中は暗かった。これは予想していたことで、僕たちは入る前に懐中電灯を取りだし、それをつけて中に入った。最後に入った中里が扉を閉めた。ばたん、という音とともに、扉が閉まる。玄関ホールには窓が無いため、完全な闇が空間を支配した。唯一の光源は、持参していた懐中電灯の明かりのみ。いつもは心許ないが、なんだかこのときは妙に心強く感じた。
「さて、どうする? 僕たちに残された時間は、あと2時間だ。日が暮れるまでに帰らないと、親がうるさい。それに、道があんな状態だと、夜に懐中電灯の明かりだけで歩くのは危険だ。だから、タイムリミットはあと2時間」
羽鳥が、懐中電灯で自分の腕時計を翳しながら、そう説明した。僕たちも、自分の腕時計を見て、今の時刻を確認する。
現在時刻、午後2時30分。1時前には到着予定であったが、悪路にかなり苦戦してしまった。今の時期、日の入りは午後7時前後。《紫陽花館》からふもとのバス停までの時間は、1時間と少しだ。まあ、多めに2時間と見ておこう。すると、5時にはここに集合して、《紫陽花館》を発たなければならない。―ー確かに、タイムリミットは多く見積もって2時間ぐらいか。
「別に団体行動をしてもいいけれど、個人で行動したほうが自分が気になっている場所を確実に見に行くことができるはずだ。だから、おれは自由行動にしたいと思うが、みんなはどう思う?」
「ちょっとまってよ。こんな危ないところを、一人で行かせるつもり?なにかあったらどうするの?」
と、不安げに紫恩が訊いた。
「確かにな。でも、最後の廃墟探検だし、自由に見て回りたい気持ちもある」
そう云ったのは、中里だった。かけているメガネに懐中電灯の明かりが反射して、少し不気味な顔をしている。
「じゃ、別に一人で行きたいやつは一人で行って、何人かで行きたいやつはそれぞれグループになるか」
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