風の旅人

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―三ヶ所(ミカショ)― 延岡藩 三ヶ所 神門社 白石の鳥居をくぐり、参道のその奥に社がある 夜だと言うのに、社の中には灯りが灯され、大きく伸びた影がまるで化け物のように舞って見える… せわしなく動く影 笛の音も加わり、それは朝方まで続けられた ?「本当ならば、舞が踊るはずだったのに…」 そう呟く男は、蒼く短い髪 緑色の琥珀を思わせる儚い目 華奢で病弱そうな美しい男だ 集まった村人達は、夜通し踊っていたためか、寝息をたてる者までいる そんな中で、彼と年老いた巫女だけは消えかけた炎の前で腰掛けていた 東は、夜明けの太陽 西は、沈む星星と月 日に当たり、白くなる月を見ながら彼は懐かしむように笑った 秋月 唱(アキヅキ ショウ) それが彼の名だ いや、正式には秋月を継承した唱の役割を持つ者…だ 唱「戦火を逃れ…この地に逃げ延びて百年近く… 我々の血は、混ざることなく神々の下守られてきた」 年老いた巫女は皺だらけの重い瞼を開け、その灰色の眼球に彼を写す 酷く濁ったそれは、すでに白くなりつつある 巫「…先帝の血が京の地へと赴くのは、定めかもしれぬ」 唱「…分かっています…分かっていますが…」 巫「唱ではなく舞だからじゃ…分かっておろう? 源氏の血は衰え、永く戦を離れた儂等は儚い人間となった」 押し黙った唱は、辺りで眠る皆を見渡す 若者と呼べる者は少ない 巫「敵と呼べる者達は、もはや居らぬ 月白を名乗り、あの剣を手にした時点で あの子の勤めは始まっておったんじゃ」 唱「…帰って来るでしょうか?」 不安気に瞳が揺れた まさか、京の男所帯に寝泊まりしていようとは、2人は露ほども知らない… 彼方此方でイビキがあがるのを無視し、唱は本殿を後にした 可愛い妹は、今何処でどうしているのか 唱「…俺とお前は対だ」 唱は、ひたすら遠い地にいる妹を想う ただただ、無事を祈って
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