記憶を無くした男

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分別が着く頃になると、彼に全てのものから俺を守れと命じた。 例えそれで彼自身が傷つくようなことがあったとしても、それはむしろ俺を守ったという証なんだからためらってはいけないと。 俺は、他の奴らにも気なんか遣わなかったから敵はたくさんいたよ。 同級生や後輩や、もちろん先輩も、もしかしたら教師すらも。 彼らは俺を遠巻きにしながらも憎んでいた。 報復が怖いから逆らえないけど、鼻持ちならないいけ好かない奴。 それが彼らが俺に下した評価。 俺はそれに気づいた時、怒りの頂点に達した。 俺といる時は調子よくおべっかを言うくせに、陰では「疎まれているのにも気づかずふんぞり返ってる愚か者」なんて。 俺は彼に告げた。 「俺の邪魔になる者を排除しろ」と。 彼は俺の陰口を叩いた者、俺に逆らった者、俺を不愉快にした者、俺を蔑ろにした者、俺の思う通りにならなかった者、それはもう俺の敵になるたくさんの人間を排除したよ。 それは暴力であったり、精神的に追い詰めることであったり、ありとあらゆる手段で徹底的に。 それで彼が傷つくことも当然あった訳だが、それを彼が厭うことはついぞなかったな。 見上げた根性の忠犬じゃないか。 でも誉めたりはしなかった。 だって彼の主人は俺で、犬が主人を守るのは当然のことだからだ。
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