記憶を無くした男

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そしてやがて俺と彼は大人になった。 彼が俺に付き従っているのは変わらなかったけれど、その頃には俺は彼に無理難題を押しつけるのに多少飽きてきていて、率直に言えば彼がいつも側にいることをうざったく感じ始めていた。 言えば何でもしてくれる、それは悪くはなかったんだがね。 俺にピッタリ張り付いて俺の周りを常に観察していて俺の表情から感情や要求を間違えることなく読んで行動する。 それでも彼は余計なことは一切口に出さないもんだから、何を考えているのかがサッパリ分からなくてね。 正直言うと、不気味に思っていたのかもしれない。 彼ももう親に寄生して生きていく歳じゃない。 選ぼうと思えば俺から離れることもできないことじゃないんだ。 それでもまだ俺の側にいる理由があるのだろうかって。
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