12人が本棚に入れています
本棚に追加
おかしい、と思った。
俺は彼がいなくなってから孤独になったのに。
もともと俺には彼しか近寄ることがなくて、俺は彼以外の人間と必要以上のこと以外は話さなかったから、他の人間との接し方なんて知らない。
彼が俺の考えてることを察してくれるのが当たり前だったから、泣くことも笑うことも怒ることも必要なくなってしまっていて、やり方を忘れてしまった。
俺は、独りだ。
彼が結婚するらしいと聞いた。
子どもができたそうだ。
平凡で極普通の幸せを手に入れようとしている、彼。
そんなことは、許せそうもなかった。
「お前は人間なんかじゃないだろう」
「お前は俺の“モノ”だろう」
「許さないよ、お前だけが“幸せ”になるなんて」
とにかく嫌だった。
彼を手放した途端に消え去った“俺”の存在価値。
彼があるがままの俺を許したから、今までの“俺”という存在はあったんだということに気づいてしまった。
彼には彼を認める人間がたくさんいて、俺にはもう、誰もいない。
それを認めるのが嫌でたまらなかった。
彼は初めて俺に自分自身の言葉を投げつけた。
『孤独に絶望するあなたが見たかったから、俺はあなたの側に居続けたのかもしれないな』と。
最初のコメントを投稿しよう!