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ノックをしろ。
などと常識的なことを言ってもこの小悪魔ツインテには通用しない(そのくせ僕がやると烈火のごとく怒る)ので、僕は抗議の意志を視線に込めるに留めた。
「『ひぃくん』もさあ」
かつてのあだ名を、夕妃は使った。
「昔は見る目があったのにね。あたしのことお嫁さんにするんだ、って言ってたじゃん」
「訓練所にいたころの話じゃないか」
僕が十歳かそこらの頃の話だ。
あそこでは同年代の、同じ境遇の子供たちが共同生活していた。
仲間意識が強かった反面、兄妹としてのそれは育たなかった。
結果、兄を兄とも思わない存在が出来上がったわけだ。
「妹よ」
重々しく、僕は口を開いた。
「お前は『普通』の貴さを知らない!」
ビシッと指を指す。
「お前はステーキかも知れない。母さんは大トロだ。だがな、毎日だと胃がもたれるんだよ!」
熱い口調になるのはやはり血なのだろうか。
「ご飯に味噌汁、焼き魚、お新香と玉子焼きーー人はな、結局は優しい味を求めるものなんだ」
自分の言葉に感動し、腕組みしつつうんうんと頷く僕を、氷の視線が突き刺した。
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