プロローグ

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ギョオオオオ!とかキモい叫びをあげて、バグが舌を吐き出した。 僕の右腕に巻きつくと、力の限りに引き始める。 「仕方ない、お仕事お仕事」 誰にともなくつぶやくと、僕は無造作に右腕を振った。 舌ごと振られたカメレオンモドキが、高速で壁に激突する。 衝撃と轟音。 自由になった右腕を軽く回しながら、見事に壁にめり込んだバグに、僕は近づいた。 あっさりとそいつを壁から引き剥がし、今度は床に叩きつける。 僕の能力はタフネスと怪力。他のヒーローのように便利な必殺技はない。 だから僕はバグに馬乗りになると、その顔面に拳をたたきこんだ。 力いっぱい。繰り返し繰り返し。 二十発目ぐらいで、バグは動くのを止めた。 その姿が変化し始めるのを見て、僕は立ち上がる。 変身するのは、僕らヒーローの専売特許ってわけじゃない。こいつらもその能力を持ち合わせている。 ただし、一度変身すると死ぬまで元には戻れないが。 変身が解け、バグの『正体』が明らかになる。 通報を受けたのだろう、パトカーやら救急車のサイレンの音が近づく中、僕は口元がにやけるのを抑えられずにいた。 ーー数学の梶山先生が急な事情で教師を辞めたと発表されたのは、騒動が収まってしばらく後のことだった。
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