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「それは……優秀な古流柔術を統合した柔道の習得出来ない技法を、古流の型に囚われた老人が何故体現出来るのですか!? おかしいではありませんか!」
正彦は先生の答えに、柔道には不要の技術だという言葉を期待していた。が、その期待は先生の言葉によって脆くも崩れ去ってしまう。
「合気の創始者は武田惣角という。柔道史のヒーロー、西郷四郎と同じ流派の柔術家だ。共に優れた術者であったが惣角は合気を生み出した為に西郷の手の届かぬ存在となった。今は大東流と呼ばれる柔術を諦めた西郷は講道館に流れ着いたのだ。その西郷にも勝てる柔道家は居なかった。その意味が解るか?」
正彦は何も言えなかった。ただ、拳を握り締め身体を震わせている。
「しかし、合気を体現出来る者は殆ど居ない。西郷四郎ですら合気に到達出来なかったのだ」
先生の言葉も慰めにならなかった。正彦の目には涙が浮かんでいる。
「何かの、何かの間違いだ!」
正彦は道場を飛び出して行った。
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