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 柔道着姿の正彦が藤公園にたどり着いた時には、既に俊介は袴姿で待っていた。   「遅いぜ正彦」   「勝負!」    正彦が襲い掛かろうとした瞬間だった。 「正彦、腕を掴め」 「は?」    正彦にとって俊介の言葉は意味不明だった。が、とりあえず言われた通りに差し出された右手首を右手で掴んでみた。   「ちーがーうー。こっちで!」 「は?」    やはり意味不明だが言われた通りに左手に持ち替えた。   「力入れて」    言われた通り思い切り抑える。踏ん張る俊介。しかし動かせない。   「もうちょっと加減して!」 「は?」    正彦は結構イライラしてきた。が、とりあえず加減してみた。俊介はゆっくりと正彦の手首を極めていく。   「痛い痛い!」    しかし俊介は止めない。大きく転身し正彦の身体はそれに合わせ仰向けに崩されてゆき、俊介の、やぁ! の掛け声と共に尻餅をついた。   「これが大東流四方投げだ」    俊介は得意げな顔で正彦を見下ろす。が、正彦は俊介が何をしたいのか解らない。勝負の最中に腕を掴めなんて言われた事が無いのだ。しかも柔道で勝負中に手首なんてまず掴まない。   「お前、意味わかんね」    正彦は俊介の腹に思い切りヤクザキックをぶちかました。俊介の身体が綺麗に吹っ飛び、倒れたと思うと腹を抑えて泣き出してしまった。
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