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柔道の練習を終えた正彦は、皆の道場から出て行く中、先生の前に正座した。
「先生。一体、柔道と空手とではどちらが強いのですか?」
先生は含み笑いを浮かべながら正彦と向き合い、胡座をかいた。
「何故、その様な事を聞くのだ?」
「僕はテレビで観たのです。僕と同じくらいの年の小学生の空手家が、ひと突きで木の板を割るのを! いやあれは真っ二つに斬っていたというのが正しいかもしれません。しかも拳で!」
正彦は熱く語る。それを聞いた先生は、一息ついた後、語り始めた。
「正彦。柔道はスポーツである。それに対して空手とは殺人術なのだ。どちらが強いかという問題ではないのだよ」
「しかし、柔道は武道です!」
先生は正彦のそう答えるのを予期していたかの様に頷く。
「よいか。柔道は武道ではない。サッカーや野球と同じスポーツなのだ。それが創始者嘉納先生の思想なのだよ」
正彦は益々熱くなる。
「サッカーとは違う! 柔道とは武道であり護身術であります!」
「違う。スポーツであるからオリンピックの種目なのだ。お前の考えは、他のスポーツを愚弄する行為。スポーツマンとは言えぬ」
先生の声は次第に威圧感を含み始めた。正彦の考えを変えてやらねばと真剣に向かい合っているのだ。
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