6人が本棚に入れています
本棚に追加
正彦は自分の家の庭で独り、正拳突きの練習をしていた。
すると後方から、正彦を呼ぶ声が聞こえてくる。振り向くとそこには先生が立っていた。正彦は咄嗟に逃げようとしたが、すぐに捕まってしまった。
「正彦、突いてみろ」
先生の言葉は意外だった。正彦は少し戸惑った後、右に構え、思い切り突きを打った。
先生はそれを右側に裁くと同時に袖を掴み、正彦の体を崩す。
「掴みは手を封じる事が出来る」
崩れた体を立て直そうとする正彦だったが、既に左の袖も取られていた。
「袖釣りは両の手を封じる事が出来る」
先生は語りかけるというよりは独り言に近い口調で喋っていた。
「空手の術者は構えを使い自らの肉体を鋼と化す。すなわち、当て身は効かぬ。が、構えを崩したならば鋼は解ける。柔の術にて後の先を取るのだ」
ふわりと浮く正彦の体が、優しくアスファルトの地面に落ちた。
先生は正彦を振り返りもせず、その場から去って行った。
最初のコメントを投稿しよう!