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藤公園は夕陽に染まっていた。正彦は柔道着にスニーカーの姿で、地面の砂の感触を確かめながら義仁を待っている。
すると甲高い自転車のブレーキ音と共に一人の学生服姿の中学生が現れた。綺麗なおかっぱ頭の少年が制服の上着を脱ぐと、中はアニメのキャラクターの女の子の描かれたTシャツだった。中学生だが未だ一年だろう。背や体格は正彦とさほど変わらず、痩せ型だった。
正彦は戸惑いながらも尋ねる。
「あんたが……義仁……さん?」
中学生は女の子のキャラクターをなびかせながら正彦に近づく。
「うん。君、正彦?」
正彦は名前は確認したがまだ戸惑っている。が、一度深呼吸した後、思い切って叫んだ。
「勝負しろ!」
真剣な正彦とは反対に義仁はへらへら笑っている。
「キター! イタい人、ハケーン!」
正彦はブチ切れた。咄嗟に突っ込んで行き、アニメキャラをわしづかみにし、大内を仕掛けようとした。が、次の瞬間、正彦は胸元に二回、何かの当たる感触を覚えた。
「はい、一本」
寸止めだった。正彦に突きは見えていなかった。痛みも無く寸止めルールも良く知らない正彦だったが完全に一本だと理解出来た。
「この野郎!」
正彦は再び技に入ろうとしたが、前に出した右足の太股には既に義仁の膝があった。
「はい、一本」
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