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タシッタシッタシッ。
固く踏み整えられた畦道を走る日に焼けた少年の足。
タシッタシッタシッ。
片手にボロボロになった草履を持ち、もう片手には握りやすい太さのまるで刀をイメージした桃の枝。
少年は無我夢中で走っていた。
息をきらせ、大きな樫の木を通りすぎる。
垣根の向こうにある集落では大きな部類に入る我が家へと到着した。
時は天保。
江戸の大火も語り継がれるようになるような落ち着きを取り戻した頃合いに、彼は多摩の豪農の末っ子として生まれた。
徳川では長きに渡った家斉が征夷大将軍を辞職し、家慶が形ばかりの将軍として君臨していた。
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