多摩の少年

3/22
前へ
/44ページ
次へ
しかし、将軍がいかに代わろうが、一農民には直接的には関係ない。 土方家程の豪農となれば、税制にて役人たちとの関わりも多少あるものの、この小さき少年にはお金の話よりも武芸の話の方が興味があるのが当然だろう。 少年は草履を形ばかりに履くと、着物についている泥も形ばかりに払った。 そして飼い犬のシロの頭を一回軽く撫でると、軒下に桃の枝を置いた。 「遅刻とは、どんな言い訳をされるつもりですか?」 ビクリ、と少年の肩が震えた。 声の方向へ恐る恐る顔を向ければ、目を閉じたままの無表情の男性。 少年はアハハとから笑いをし、目を泳がせた。 「皆と赤穂浪士ごっこしてたらさ、思いの外盛り上がっちゃって」 盛り上がったと言ったが、誰が大石役をするか揉めてしまい、ほとんど赤穂浪士ごっこをするまでには至っていなかった。 何とか大石内蔵助役を勝ち取ったその時点で、兄との約束の刻が来てしまい、慌てて帰宅した次第である。 .
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

49人が本棚に入れています
本棚に追加