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生命とは何たるか!!…と、いう彼の定番講義はいつでもどこでも行われる。
世界のありとあらゆるものを愛で包みこむような暖かな笑顔もプラスされ、彼はまるで"神のような男"だと言われていた。
「休憩ですか。有り難うございます」
そうやってまた、くしゃりと優しげに笑う井内。看護婦もまた釣られて笑わずにはいられない。この流れのおかげで、産婦人科病棟にはいつもシャボン玉のように穏やかな時が流れていた。
「あ…」
診察室を後にし、廊下へ出た井内。そこで彼は一人寂しげに佇む少年の姿を発見した。
「…君、迷子かな?」
迷わずそうやって話し掛けると、少年はぶんぶんと首を横に振った。見たところ歳は8歳前後だが、周りに親らしき人影は見当たらない。
「誰かを探してるの?」
妙に表情の固い少年。不思議な空気が漂っている。何も答えようとしない少年に、井内は少々考えてから質問を変えた。
すると、ようやく少年はこくりと頷き、小さく口を開いた。が。
「新しく、とり憑く人」
紡がれた言葉に、井内は首を傾げた。
「…え?」
首を傾けたまま、笑顔もそのままで問い返すが
「僕が、取り憑く人」
少年はその言葉を繰り返す。どういう意味なのかよく解らない。いや、普通なら解るのかもしれないが、絵に描いたような天然ボケの井内には全く意味が通じなかった。
「えーと…」
どうしようかなと頬をかく井内。すると
「井内せーんせ」
唐突に、そんな明るい声が背後から放たれた。振り返ると、そこには同じ白衣を着た男が一人、満面の笑みで立っていた。
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