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「だから!何なんだその意味不明な名前は!!医学的にも聞いたことないぞ!」
「だからぁ…」
そんな二人の会話はいつだってこのテンションだ。
「書いてあるんだって。服に」
「…は?」
唐突に、王が立ち止まった。
怪訝そうに眉を寄せ、結平も立ち止まる。二人が同時に目にしたものは
「僕はハイエニストでーす。って、意味なんじゃねえの?」
「……」
彼等の数メートル前方に佇む、小さな子供の姿だった。
王の言葉に、子供がにたりと笑い頷く。相変わらず、不気味な笑顔だった。
「…ほら!頷いた!」
「……」
言葉もなく子供を見つめる結平。その子供はもちろん、先程彼が診察室で見た少年と同じだ。
ここ最近、気が付けば近くにいる、謎の存在。
今までは気が付いていなかったが、少年のTシャツに、油性ペンで無造作に書いたような字で確かに『ハイエニスト』と綴られている。
「…消えろ!!付いて来るな!!」
だが、そんなもの知ったことか。
名前を知ったところで、用は無い。
そうやって再び追い払うと、少年はつまらなそうに指を咥えて目を細めた。
そして、はあと結平が息を吐き僅かに視線を逸したその一瞬の内に、それは彼の視界から姿を消していた。
もちろん、王の視界にもいない。
「あれっどこ行った」
「……全く…気味が悪い」
一瞬の隙に消えた少年をキョロキョロと探す王。だが結平は特に気に止める様子もなくそっぽを向いた。
「あっ…どこ行くんだよー」
「うるさい!」
「俺これから食堂行くけど、お前はー?」
「いらん!!」
さっさと背中を向けて去って行く結平に、王はやれやれと頬をかいた。
「ったく、頭ばっかり使ってないでちゃんと飯食わないとー…また痩せるぞー!」
だが。
「……っ!!」
数メートル離れた辺りで、唐突に何かを思い出したかのように結平が振り返った。そしてそのまま足早に王の元へ舞い戻って来る。
「お、何だ?ちゃんと食う気になったか?」
「違う!!お前…っ」
血相を変えた結平。
がしりと王の腕を掴み、じっくりと彼の目を見つめた。
「……な、何だよ」
「お前…さっきの!!」
あまりの緊迫感に汗をかく王。だが結平は彼を手放す事なく、睨むようにじっと見つめている。
「……見えたのか…あの子供が」
しかし重々しく綴られたそんな言葉に、王はきょとんと目を丸くした。
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