名医ベスト5

5/13

13人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
「だから!何なんだその意味不明な名前は!!医学的にも聞いたことないぞ!」 「だからぁ…」 そんな二人の会話はいつだってこのテンションだ。 「書いてあるんだって。服に」 「…は?」 唐突に、王が立ち止まった。 怪訝そうに眉を寄せ、結平も立ち止まる。二人が同時に目にしたものは 「僕はハイエニストでーす。って、意味なんじゃねえの?」 「……」 彼等の数メートル前方に佇む、小さな子供の姿だった。 王の言葉に、子供がにたりと笑い頷く。相変わらず、不気味な笑顔だった。 「…ほら!頷いた!」 「……」 言葉もなく子供を見つめる結平。その子供はもちろん、先程彼が診察室で見た少年と同じだ。 ここ最近、気が付けば近くにいる、謎の存在。 今までは気が付いていなかったが、少年のTシャツに、油性ペンで無造作に書いたような字で確かに『ハイエニスト』と綴られている。 「…消えろ!!付いて来るな!!」 だが、そんなもの知ったことか。 名前を知ったところで、用は無い。 そうやって再び追い払うと、少年はつまらなそうに指を咥えて目を細めた。 そして、はあと結平が息を吐き僅かに視線を逸したその一瞬の内に、それは彼の視界から姿を消していた。 もちろん、王の視界にもいない。 「あれっどこ行った」 「……全く…気味が悪い」 一瞬の隙に消えた少年をキョロキョロと探す王。だが結平は特に気に止める様子もなくそっぽを向いた。 「あっ…どこ行くんだよー」 「うるさい!」 「俺これから食堂行くけど、お前はー?」 「いらん!!」 さっさと背中を向けて去って行く結平に、王はやれやれと頬をかいた。 「ったく、頭ばっかり使ってないでちゃんと飯食わないとー…また痩せるぞー!」 だが。 「……っ!!」 数メートル離れた辺りで、唐突に何かを思い出したかのように結平が振り返った。そしてそのまま足早に王の元へ舞い戻って来る。 「お、何だ?ちゃんと食う気になったか?」 「違う!!お前…っ」 血相を変えた結平。 がしりと王の腕を掴み、じっくりと彼の目を見つめた。 「……な、何だよ」 「お前…さっきの!!」 あまりの緊迫感に汗をかく王。だが結平は彼を手放す事なく、睨むようにじっと見つめている。 「……見えたのか…あの子供が」 しかし重々しく綴られたそんな言葉に、王はきょとんと目を丸くした。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加