名医ベスト5

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「ハイエニスト君?…見えたって、当たり前だろ?」 「看護師達には見えてなかった!患者にもだ!!」 「えー…何で」 「知るか!!おかげで俺は変人扱いだ!」 当然のように二人には見えていた少年の姿。 王はただ能天気な性格なもので、それが常人には見えるモノではないのだと気が付いてすらいなかったようだ。 「それは人間じゃないからですよー」 だがその時、唐突にそんな一言が二人のすぐ真横から聞こえた。何とも淡白な、気合いの感じられない声。 二人共に振り向けば、鮮やかな金色の髪がすぐ目に飛び込んだ。 「…いやぁビックリした。公衆の面前でいきなり何するのかと。いくら女嫌いだからって、それはないですよねぇ結平先生」 ハハハと空の笑いを漏らしながら、ふうと息を吐く男。彼の口から息と共に白い煙があがる。 ここは中庭のちょうど隅の方。うまく植木に隠れてしゃがみ込んでいるため外側からは彼の姿がよく見えない。そのせいで先程まで王も結平も全くその存在に気が付いていなかったのだろう。 「…黒井先生!ここは禁煙ですよ!!」 結平がすかさず彼の前に立ちはだかり指摘する。 だが、黒井と呼ばれた男の方は悪びれる様子もなくまたふうと白い煙を吐いた。まるで、どこぞに座り込む不良少年のようだ。 「まあまあ。いいじゃないですかたまには外の空気吸いながら一服したって」 「場所を考えて下さい、場所を!」 生真面目な結平と、見るからに不真面目な黒井。これもまた正反対の二人だ。 「ちゃんと灰皿は持ってますかー?」 「そういう問題じゃないだろう!!」 王がまた能天気に口を出すが、きっぱりと結平が切り捨てる。 「持ってますよ。隠れて吸うの得意なんで」 「黒井先生…!!」 どうやら、黒井と王のテンションはさほど変わらないようだ。結平が一人で騒いでいるようにしか見えない。 「…やれやれ。噂通りの優等生君ですね結平先生は」 仕方がない、と咥えていた煙草を携帯用灰皿に捨てる黒井。まるで、正しい事を言っているはずの自分の方が悪いかのような空気に、結平はひくりと口元を歪めた。 「…貴方は噂とは別人のような不良医師ですね黒井先生」
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