名医ベスト5

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負けずに嫌味を込めて黒井を見下す結平。だが、相手にはさほど効果はなかった。 「ははは!まあ普段は猫被ってますからね~百匹くらい」 そうやって笑った笑顔がきらりと輝く。先程までやる気なくダラダラと煙草を吸っていた男と同一人物とは思い難い爽やかな笑顔だった。 「やだなぁ・・・よりにもよって結平先生に正体がバレると色々面倒だ。僕の患者には内緒にしといて下さいね」 「裏で喫煙してる事をですか?別に、そんな事口外しても自分に得はありませんから。第一貴方の患者に言ったって無駄だ」 「あはは、ですよねー」 お茶目にウィンクまでして見せた黒井に対して、結平は不機嫌そうにふんとそっぽを向いた。そんな彼を前に、黒井ははにかむように苦笑した。 …実は、これも猫を被っている。普段は百匹と言ったが、今現在、二人と遭遇した時点から既に五十匹くらい被っている。 そう、黒井は裏と表の顔を使い分ける達人だった。 彼の名は黒井椎那[くろい しいな]。 何を隠そう彼もまた聖クロウズのベスト5メンバー、小児科の看板医師だ。 鮮やかな金色に染められた髪と色付きのワイシャツを白衣の中にだらしなく着た風貌は完全な不良医師を物語っているが、装いとは裏腹に人柄は大層良く穏やかで、子供に優しく子供に好かれる良きお兄さん…と、言われている。 診察にやって来る患者の保護者の間では"可愛い"などと評判のイケメン医師。同じ呼ばれ方でも結平は近寄り難い知的な美男だが、黒井は朗らかで話易い爽やか美男だ。 あまりにキラキラと笑うものだから、装いの派手さは全く気にならないという。 …まあ、裏の顔を知らないからこそ言えることなのだが。彼が100%素に戻ればそれはもう……そう簡単には言葉にできない。
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