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去年の春に高校を卒業した惺ちゃんは東京の大学に進学し、地元を離れ、一人暮らしを始めた。 両親になるべく負担をかけたくないと考えた惺ちゃんは、学業をこなししつつ生活費を自分でも稼ぐ為バイトを始めた。 そのため盆も正月も帰って来れず、進学後初めての帰省だった。 昔から責任感が強い惺ちゃんらしいと言えばらしい話だと思った。 面倒見もよくて、一人っ子の私を妹のように可愛がってくれた。 一年ちょっとぶりの再会と言えど、惺ちゃんが高校に入ってからは殆ど接点もなかったから、まともに話したのは久しぶりだ。 「それにしても東京に行って垢抜けたせいか、ますますイイ男になって。 大学でもモテるでしょ? 高校生の時もモテモテだったものね」 お母さんがニコニコしている。 「そんなことないですよ」 惺ちゃんは、それを笑顔でサラリと交わした。 「あら、彼女くらいいるでしょ?」 「......残念ながら、今はいないんです」 少しの沈黙の後、惺ちゃんは先程と変わらぬ笑顔で答えた。  
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