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「おわったー」
両腕を伸ばしてテーブルの上に伸びると、背中の方から呆れたような声が聞こえてきた。
「プリント一枚に30分以上かかるとか......有り得ない」
「だって算数苦手なんだもん」
「そうねえ。いつもは途中で投げ出すひかりが今日はちゃんと終わらせたんだから頑張ったわね。
惺悟くんのおかげね」
「えっ......と?算数やらないこともあるの?」
目を細めて笑うお母さんとは対象的な真ん丸の惺ちゃんの瞳。
......何を言いたいのか、否応にも想像出来てしまう。
「......それが何か?」
わかってはいても素直には認めたくない私は、わざと可愛らしくない反応をしてしまう。
「算数はこれから学んでいく計算とかの基礎だろ?
それが今から苦手って、大丈夫なの?」
うっ......痛いところを。
「そのうち得意になるから良いんだもん!」
痛いところを突かれて居心地の悪くなった私は、話を強制的に終了させた。
惺ちゃんが少し憐れみの表情をしていたようにも見えたけど、見て見ぬふりをすることにした。
「そういえば、惺ちゃんはいつまでココにいるの?」
「ん?ああ......バイトが16日から入ってるから、明後日の15日までかな」
居間に掛けてあるカレンダーを見ながら惺ちゃんは答えた。
「ふーん......」
すぐに帰っちゃうんだなぁ。
惺ちゃんが高校で生徒会や部活で忙しくなるまでは結構遊んでいた私たち。
お互い一人っ子の私たちは兄妹のように育ってきた。
久しぶりに会って、大人っぽくなった惺ちゃんが知らない人のようで初めは緊張したけど......。
話してるうちに昔の感覚が戻ってきていた私は、惺ちゃんとの別れが寂しく思い始めてもいた。
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