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「......だからね、赤ちゃんが......」
惺ちゃんのお母さんの言葉の最後は小さすぎて聞き取れなかった。
だけど、今の話で言いたいことは部外者であるわたしたちにも分かった。
分かってないのは、驚いた顔の惺ちゃんだけ。
......ううん、きっと惺ちゃんも分かってるはず。
だって、それがどうした?って顔してる。
「は?だから?」
......やっぱり。
「結婚もしてないのに、先に交際相手を孕ますなんて無責任なこと、お前はするなよ。高校生の時から付き合っている子がいただろう?」
「なっ......」
......はらます?
はらますって、どんな意味だろう?
腹巻きなら分かるけど、きっと全然違うんだろうな。
っていうか、惺ちゃん付き合っている人がいたんだ。
昨日は、いないって言っていたのに。
そんなことを頭の中で考えていたら、部屋中にパコーンという軽快な音が響いた。
「......ッた!」
斜め前を向くと後頭部を抑えたおじさんの姿があった。
隣には口元に右手を添えて笑うおばさんの姿が。
左手には見慣れたスリッパが。
あれは我が家のお客様用スリッパだ。
「ごめんなさい。ひかりちゃんがいるのに、こんな話しちゃって。この人、酔っぱらうと少し質が悪いのよね。ひかりちゃんも今の話は気にしないでね」
「あ、はい......」
いつもは比較的おっとりな惺ちゃんのお母さんの意外な一面に驚いたわたしは、それしか返す言葉が思い付かなかった。
「はは......ま、まあ気を取り直して呑み直しましょう。美和子さん、ビール持ってきてください」
明らかに動揺しているパパはママに新たなお酒を頼んだ。
「そうですね。せっかく皆で呑んでるんですから楽しみましょう」
ママはキッチンへビールを取りに行った。
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