第四十三章 最期の戦い

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「………で、どうよ?負けを……認めるか?」 場所は変わり、床も壁も、天井すらも一点の曇りもない純白の空間。 何処までも続くかのような、永遠を思わせる長く遠く、広くも何処か閉塞感のある冷たい部屋。 その中にあるのは巨大な、長さが二十メートルは優にあろう何本ものパイプの連なるオルガンと、その手前にある一つのチェス台。 そこで、白と黒の盤上で一進一退の攻防を繰り広げるは【魔】を統べる七人の魔王が二人。 【憤怒】の罪を持つ魔王【サタン】と、 【傲慢】の罪を持つ魔王【ルシファー】。 他の五人とは一線を画す強大な力を持つ二人はただただ静かに盤上の駒を動かしている。 局面は、素人目に見ればルシファーが有利。 しかし、サタンは声を押し殺しながら笑っている。 「そうですね………まさか此処まで追い込まれるとは思いもしませんでした。流石は神の伴侶たる魔神の王です」 「そう思ってんなら、もう少し悔しそうな顔しやがれ」 「すいません。私は表情を作るのが苦手でして」 淡々と、手に持った紅茶を啜りながらルシファーは光の宿らぬ眼でサタン………【神楽光輝】の眼を真っ直ぐに見抜く。 「ま、それは置いておき、俺が勝った時の条件はわかってるな?」 「何も聞かされていないのに………と、言いたい所ですが、どうせ貴方の要求は神への謝罪と、私の力の封印………でしょう?」 「御名答。……と言いたい所だが、お前の糞みたいな力なんぞ俺にゃあどうでもいい。だかな、俺の女ぁ泣かした事については………血反吐を吐きながらでも謝ってもらうぜ」 決して感情的では無く、あくまで冷静に言葉を紡ぐ光輝だが、やはりその言葉からは隠し切れない程の殺気が感じられる。 自業自得とは言え、妻を泣かされて黙っていられる程俺は出来た人間ではないと、既に人間を捨てた化け物の口から出た言葉にルシファーは思わず笑いを零した。 クク………と、それは小さな小さな笑み。 「ならば私の要求も今言いましょう。私の要求、それは神の身柄を私に引き渡して頂きます」 「俺が倫を貴様なんぞにやると思うか?」 「そういう契約の元での勝負です。嫌なら勝てばよろしいのでは?」 そう言って、ルシファーはずっと動かさなかった駒、クイーンに手を掛けた。 「サタン………いえ、魔王神楽光輝よ。貴方に………これが破れますか?」
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