第四十三章 最期の戦い

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そうしてエミは渋々と、たまたま近くにいた整備担当の知識猫を捕まえてデッキへと。 そんな頼りになる副船長たるエミを見送り、ウォレットは艦内放送でフィリを呼ぶ。 ガスターとの一戦で負った傷を治してもらう為だ。 もう塔への道は開かれ、入り口もご丁寧に作られてある。 つまり、クラウニールは此方を待っている。 待っているのなら、少しくらいは治療に時間を割いても平気だろうと、ウォレットは己の身体に無造作に巻き付けてある血の滲んだ包帯に手で触れた。 「………つーかよぉ、今更だけど、勝てるんだよな?」 「なんだ?いつになく弱気じゃないか。人に戻って闘争本能が薄れたか?」 「ばっか、アタシは今が一番強えんだよ」 ただ………と、一言添えてレヴィリアの表情は曇る。 彼女の言いたい事はわかっている。 それは華の都で相対した時、クラウニールの【時間停止】の能力の前に手も足も出なかった事。 あの男の能力は強過ぎる。 恐らくは体感で数秒程度の短い時間した止められぬのであろうが、人を殺すのには数秒あれば十分なのだ。 正直、強がってはいるが、勝てる見込みは限りなくゼロに近い。 「………これは俺の直感だ。なんの確証もない、ただの子供地味た戯言と思って聞いてくれて構わない」 そして、ウォレットは口にした。 「クラウニールに勝てるのは、奴と同じ大いなる遺産………不死の秘法をその身に受けた君だけだと俺は思っている」 あれは大魔王ルシファーの力の一部を人間に移植すると言う禁忌の術法。 つまり、クラウニールは今、一部………ごく僅かではあろうが、傲慢の魔王の力を持っている事になる。 しかし、それはレヴィリアとて同じ。 さらに言えば、レヴィリアは己の力………とは言い難いが、その魔王の力を打ち破り、人間の姿へと戻っている。 「そりゃあ流石に押し付けってもんじゃねえのか?」 「言ったろ?子供地味た戯言と思ってもらって構わない………とな」 ニヤリと得意げ、意地の悪そうな笑みを浮かべるウォレット。 同時に、外から何やら歓声のようなものが聞こえてくる。 恐らくはエミが何か言い、エミに心酔している者達が歓声をあげたのだろう。 「しっかし………山で拾った子汚ねえガキが、短期間でよくここまで育ったもんだよな」 「それだけ………エミも努力したのさ」
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