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「……またやっちまった」
頭が痛い。
目の前の景色が有名な画家の絵の如く、グニャリと歪んでいる。
貧血だ。
これまでも何度か貧血で倒れた事はあるが、今回のは特に酷い。
ここは病院のようだ。何度も嗅いだ病院独特の匂いがする。
既に常連ともなった病室の時計を見る。
倒れてから半日過ぎていた。
「やっと、起きたか」
聞き慣れた声。
俺の主治医だ。
この人は何かと俺の面倒を見てくれる先生で、海堂芳樹という。
先生は俺の両親と仲が良かったらしく、小さい頃から世話になっている。
「一日以上寝ていたからな、さすがに心配になる。夜更かしもほどほどにしとけ。お前を死なせたら、あいつらに会わせる顔が無いからな」
「会わせるもなにも、二人とも、もうこの世に居ないじゃないすか」
あ。あと訂正。
半日じゃなくて、一日と半日だった。
「そうだったな。まあ、あと一日ぐらい休んでけ」
「いえ、すぐ帰らしてもらいます」
「そうか、もう来んなよ」
そうやって会話を交わして病室を後にする。
受付の横を抜け、外に出る。
既に太陽の沈みきった空は黒く、街灯の少ないこの町は、闇の中へと堕ちていた。
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