第一話

2/24
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
日照りが続く八月中旬。 尋常じゃない暑さで 何もしなくとも汗が止まらない。 蜃気楼がユラユラ見える。 倒れる人が出ても おかしくないのだけれども ここ、田舎には そんな弱い人は一人もいない。 食べてるものが そうさせているのかも。 たまに吹く生ぬるい風で チリン―と鳴る風鈴を 縁側に仰向けになりながら ホワンと眺める。 右手には団扇(ウチワ)。 扇風機やエアコンは 昔からこの家にはなかった。 何気なく左手を上げれば 腕に絡む長い髪。 邪魔だなぁ…… 切ろうかなぁ…… 「ハズキ! アンタまたそんな日向で ゴロゴロしてぇ!」 ドスドスと 畳の上を踏みつけるように 歩いてきたと思ったら 唾が飛び散りそうな程に 怒鳴ってきた私のお母さん。 「大丈夫です。 ちゃんと日焼け止め塗りましたからぁ」 私が欠伸をしながらそう言えば またお母さんは 口をクワッと開け言葉を発する。 「そう言って いつも塗ってないじゃないの!! アンタ日に当たれば すぐに真っ赤になっちゃうんだからね!? ちゃんとわかってるの!?」 お母さんは怒鳴りながら 私の両腕を引っ張り 日陰のできている畳の上へ 放り投げる。 「痛いですよっ 逆に肌が赤くなりますっ」 「じゃあ二度と 日向に行くんじゃないよっ!」 お母さんは私の体に 湿気を纏わせキノコを生えさせたいのかな。 なんて遠くを見ながら思い 体育座りをしてボーッとする。 「ハズキぃ、一恵から電話だよぅ。」 呼ばれた方に振り向くと 開け放たれた襖の影から ひょっこり顔を出している 私のおばあちゃん。 背が小さく腰が曲がっていて いつも頭に薄い手拭いを巻いて いくつものシワがよる顔は 無条件に優しさを出していて 私の大好きなおばあちゃん。 「一恵!? なんであの子ずっと連絡も寄越さんと!」 お母さんはまた ドスドスと畳を踏みつけて 電話の置いてある廊下へと向かって行った。 あれ? 私に電話じゃなかったのかな? 私はそう思いながら おばあちゃんと ゆっくりした足取りで お母さんを追った。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!