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      (壱)  あなたがその画を飾りだしたのは、東北地方を中心とした東日本が驚異的な災害に見舞われた年の夏頃であったので、まだ幼かった頃のことと記憶している。  当時あなたの部屋の壁には、一枚の画が飾られていた。否、この物言いには語弊がある。当時も、或(ある)いは当時からと言った方が正しく、白の画用紙に幾重にも重ねられた鉛筆の黒線と、か細く優婉(ゆうえん)に流された薄い暈(かさ)の如き影とが紡ぎ、浮かび上がったあなたの肖像は、今日もあなたの家の居間の壁にて静かに鎮座している。  画の中のあなたは、とても若々しく実物よりも遥かに端整で、長く細い繊細そうな指に挟んだ煙草を口許で燻らせ、綺麗な髪をしている。そして、その髪の分け目から覗く澄んだ眼が何とも印象深く、憂いすら孕んだ様にさえ見え吸い込まれそうになるのだが、その眼は決して、見る者と交わせてくれることは無い。
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