運命Ⅲ ―一線を越える時―

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 設備自体にそこまでお金は掛けていない為、室内防音は、ほぼ皆無。  よって、扉に背中を預け、聞き耳を立ててしまえば、中のやり取りを把握するのは容易い。  恋人と言っても、無防備にベッドに横たえるこころを託したのだから、最後まで事の次第を見守る責務がある。  なんて、体のいい大義名分を掲げているだけであり、盗み聞きをしている事実は変わらない。  湊に想いを寄せておきながら、どんな風に他の男性と接するのか、どうしても気になるのだ。  薬で思考回路を狂わされているのならば、尚更に。 「こころ……大丈夫か?」 「ん……胸元が、苦しいの。陽、お願い、助けて……?」 「…………、」  微かに息を飲む音が、聞こえた。  ギシリ、ベッドのスプリングが軋んだ。  中で少々"過激"な行為を致しているのかもしれない。  だけども我関しない。  第一これは、恋人同士の極々平凡な、戯れ。  お互いが同意の上で成り立った事柄なのだから、外野がいちいち首を突っ込むのは、野暮と言うもの。  そう、例え正気に戻った彼女が、後に猛烈な後悔の念に囚われようとも、知ったことではない。 「……ん、もっと、脱ぎたい……」 「……おい、これ以上は、」 「陽は、私の彼氏、だよね……?」 「……あぁ」 「は……ぁ……もう、熱くて、限界……」  ーーパサリ  衣服が床に、落ちた音がする。 「……こころ、本当に、いいんだな?」  彼も、事が終わった後、自己嫌悪に陥る彼女を気遣い、そんな最終確認をしてきた。  余程、大切に想っているのだろう。でなかったら、好きな人に誘われた時点で、欲望に忠実となっている。  湊にも、彼にも、類い稀に見ないレベルで寵愛を受けているのが、妬ましくて、憎らしい。 「……ユイだって、みなとくんに触れてもらいたいよ」  脳裏を過るのは、数日前、唯花の元を訪れた、華やかな笑みを浮かべる、綺麗な女性。  
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