接触Ⅰ ―オレンジ―

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 着いた場所は裏庭。  あんなにてんやわんやと煩かった廊下を抜け出せばこんなにも閑散としていた。  まるで別次元へこんにちはしている気分になると、般若よろしくな形相で女達に睨みつけられているのにも関わらずこころは呑気にそのようなことを考えていた。 「それで、要件は何でしょう」  口火を切ったのはこころ。    分かっているくせに、敢えてソレを口にした。口角を上げて。その笑みさえも美しく、それでいて妖しく見えてしまうのだからどうしようもない。  そんじょそこらの芸能人顔負け、そして下手な芸能人よりか知名度がある。……悪い意味で。  三人のうちの一人が、グロスによってテカらせた唇を開く。 「は? 要件は、じゃねーよ」  随分口が悪いみたいだ。  女としてそれはいかがなものだろうか、とこころは内心思うがわざわざそこで荒波を立てることもあるまい。 「先月、私の彼氏とあんたが出かけているとこ見たんだよ」 「とぼけても無駄だから。証拠だって揃ってんの」  そう、一枚の写真を一人が持ち出してきた。  その写真をこころはマジマジと見つめ、ああそれかと心当たりがあった。  とぼけるつもりは毛頭ないにしろ、この男がこの女の彼氏だと言うのは初耳だ。  確か道を歩いてたらナンパをされたんだっけと記憶を鮮明に遡る。軽薄で、始めから自分を色欲のある眼で見てきて、こころが嫌いなタイプ一直線だった。  あの後、近辺の喫茶店に入って軽くお茶をして適当ないい訳を吐き捨て帰路についた。あのままいけば確実にお持ち帰りされていた 。  それだけは阻止したかった。梨磨に合わす顔がなくなる。  そうか、あの男は彼女持ちだったのか。いやしかしあのノリはいかにもフリーですと言わんばかりだったのでは……  いいや、過ぎ去ったことをうだうだ考えても仕方がない。  こころは溜め息をついて、その男の彼女だと言う女に目を向ける。こうも頭に血を上らせているのはこの男のことが好きだから、はたまた男を取られたと言う事実が許せない、もしくはその相手がこころだったからなのか。  こればっかりはこの女にしか分からない心情だ。  
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