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女達はピタリと動きを制止させて、その声に、ぎこちなく後ろを見た。
こころは女達に囲まれているためにその声の主を確認出来ない。まさかこんな風に自分に救いの手を差し伸べてくれる輩がこの学校にいたことに驚きだ。
顔は見えなくとも隙間から、足元からそのやや上辺りまで見れた。
男……
まあ、この流れで女なはずがないのは分かっていたけど。
こう言う時決まって見返りを求められてしまう。
デートしてだの、キスしてだの、中にはヤらせてと馬鹿正直に申してきた者もいた。
当然こころはキスしてまでしか許していない。
こころにとってキスは唇と唇が触れるだけの至極どうでも良い行為。
嘘をより一層誠にするためにはこのぐらいしなくては。
「風見さん……!」
「どうしてここに……」
順々に動揺が露となった声を漏らしていく。
あの気が立った彼女達の姿はどこへやら。
焦燥めいた、それでいて色を含ませた雰囲気を纏わせている。
この態度の変わりように、こころは首を傾げた。
一体誰があの向こうにいると言うのだろうか。
「ひなたぼっこ」
あそこの木の下でね、と何とも可愛らしい返答が男から返ってきた。
それにしても、とこころは思う。
やけに耳に残る声だ。
高すぎず、低すぎない心地の良い音。
珍しくこころは男の声について賞賛した。
「君達が煩くて眠れやしないよ」
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