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男の口振りから、何だ眠りを妨げられたからこうして割って入ってきたのかと納得した。
確かに、とこころは女達の背を見て一人頷く。自分はそうでもないが、喚き立てるこの女達の声は何かと耳につくものがある。
「ごめ……なさいっ私達、気付かなくて……っ」
しかして、これはどう言うことなのだろう。
相手は先輩なのか、女達は揃いも揃って心底申し訳なさそうに頭を下げる。
いや、先輩だからと言ってこうも詫びるものなのか……?
もしかしたらこの学校は先輩後輩と、上下関係に煩いところなのかもしれない。
となるとこころも一応は被害者ではあるものの、謝罪の言葉を述べておいた方が良いのだろうかと考える。
彼女達のように、そこに一ミリとて悪いと思う気持ちは入ってこないのだが。
「こっちは寝不足なわけ。わざわざ人混みを避けてきたって言うのにさぁ」
それにしても、この男は何なんだ。かなりの自己中心的人物のようで。
いやにネチっこい。だったらそれこそ家で寝ていれば良いのにとこころは内心呟く。常崎に通っているからには出席日数を気にしているわけじゃあるまい。
「……っ」
「早く行ってくれない? これ以上、俺を不快にさせないでよ」
生唾を飲む音が彼女達の傍らにいたこころには聞こえ、足早にこの場を立ち去った。その時に見えた彼女達の横顔は青ざめたもので、この男の影響力は自分とはてんで異なるものなのだと実感した。
「ねえ」
自分あてであろうその声に、こころはビクリと肩を上げた。
視線を女達が見えなくなった方向から、前へ。
すると、こころの零れ落ちそうな、大きな瞳がより見開かれた。
やけに聞き惚れる声だったなと印象を抱いていたが、そんなのはオプションだとさえ思った。
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